ありがとう






 コロニーの中とはいえ、まわりが薄暗くなっている。


 地球と同じまではいかないが、多少なりの環境は整えている。


 地球に住んでいる人も、コロニーに住んでいる人もなんら変わりがない。


 そんなコロニーの中で二人の少年少女が道を歩いていた。




「キラ」


「はい?」




 名を呼ばれて返事をするキラはフレイに振り向くと、フレイと目があった。




「冗談抜きで、どこかで会ったことあったか?」




 フレイの言葉に、キラは少し瞳を大きくしただけだったが、少し微笑んで応えた。




「はい。ずっと、昔に・・・・。ほんの少しだけでしたけど・・・」


「昔・・・・・・?」




 いわれてフレイは握りこぶしをあごの下に当てて思い出すしぐさをしていた。




「すぐには思い出せないけど、そうですね・・・」




 いったん言葉をきってから、フレイの顔を見つめて口を開いた。




「まるで、夕焼けから生まれてきたみたい」




 キラの言葉を聞いて、唐突に小さな声が脳裏の中に蘇ってきた。




『夕陽のなかから生まれてきた妖精みたいだね』






 キラキラと輝いて顔を赤くして自分を見つめていたアメジストの二つの瞳が浮かんで・・・・幼い顔が、今のキラの顔と重なって見えた。




「・・・・・・あ・・・・・あの時の・・・・!!?」




 ようやく思い出したのを気づいたキラは嬉しそうに微笑んでいた。




「思い出してくれたんですね?」




 キラの笑顔にあてられ、内心照れながらもかろうじて何とか答えた。




「あ、あぁ、思い出したよ。どこかの公園で、砂場にいた君に声をかけられたんだったな。最初の言葉が、それだったな」


「本当に、そう見えたんです。気に障りましたか?」




 不安そうに眉をひそめるキラに、フレイは首を振った。




「まさか!変な事をいうやつだなとは思ったが・・・・・・あ、いや、そうじゃなくって・・・・その・・・」




 いってしまった言葉は取り消せなくて、あたふたとあわてるフレイに、キラはほっとした顔をした。




「よかったぁ」


「え?」




 怒るのではなく、安心したキラをフレイは文句を言われるかと思ったが、予想を飛び越し、唖然とした。




「今思えば、恥ずかしいセリフをいってしまって、気を悪くしたかなって思っていたんです。だから、心配だったんです」


「いや、あれは・・・・その、嬉しかったんだ」




 言おうか言うまいか、一瞬迷っていたが、自然と口に出るフレイ。


 きょとんとフレイを見るキラはオウム返しに訪ねた。




「嬉しかった?」


「あぁ、その、俺ってさ、妖精とかが好きだったんだよ。飛んだり、何でもできるってやつがあるだろう?それに、悪戯にやってみたいってのが結構あったから、ちょっと憧れてたんだよ」




 意外な一面に、キラは驚いていた。




「おかしいだろ?あの頃は本気で思ってたんだ。妖精になりたいなって・・・。現実は起こり得ないって言われたし、正直落ち込んでいたんだ。で、そんな時に、キラがその言葉を言ってくれて、ほんとに嬉しかったんだ。あの時はぶっきらぼうだったけど、ほんとに嬉しかったんだ」




 そういわれて、キラはフレイが照れくさくて天邪鬼みたいなところがあるんだとわかって、微笑んでいた。




「かわいいところあるんですね」




 かわいいといわれていい気はしないフレイだったが、キラの笑顔を見てしまっては怒る気にはなれなかった。


 むしろ、怒りを消してしまいそうな微笑だった。


 力が抜けたフレイは頭をかいてとりあえず話を切り替わろうと考えをめぐらし、ふとあることに気づいた。








 確か、あの時のキラは男の子だと思っていたが・・・・女の子だったとはな・・・・。








 口に出す事はなく、心の中で呟くフレイに、キラが知る由もなかった。




「そういえば、あれから無事父に会えたんですね?」




 はたと思い出したようにキラが言い出すと、それが別れた後の事だと気づいたフレイは頷いた。




「あぁ、キラが道を教えてくれた通り、無事に親父と合流できたよ。いまさらだけどさ・・・・ありがとう」




 フレイに礼をいわれて、キラは首を振った。




「いえ、無事に会えたのか、心配でしたから・・・。迷わなかったかなって・・・・」


「いいや。迷わなかったし、キラの教えてくれた道順がわかりやすかったんだ」




 フレイの言葉に頬を染めるキラを、フレイは愛しいと思った。








 可愛いな・・・・。俺のものにしたいな・・・・。








 渦巻く欲望が生まれつつある自分に驚きを隠しきれなかった。


 自分がこんなにも異性に好感をもつなんて、今の今までなかった。


 それほどまでに、キラに惹かれているのだと気づいた。






 フレイの要望が、現実になるのはそう遠くなかった。








続く...?
 





後書き(反転)
H17.4.10up



 【24.図書室】の続き(汗)
 うーん、タイトルどおりにがんばっているが、これはちょっと無理が出ているな。
 まぁ、そんなもんだろう。


 しかし、妖精ね・・・・。赤い妖精なんているのかな?
 妖精っていうのなら、キラのほうが似合っているかもしれないな。


 ・・・・・もはやいうことなし。


 さてと、最後まで読んで下さってありがとうございます。
 ご意見、ご指摘を頂けると麓樹は嬉しいですっ!
 また次の話でお会いしましょう!!


odai --- novel