勇気を・・・



 奈央は、披露宴を抜け出して庭のほうへ足を踏み出していく。

 松と竹の組み合わせた風景が目に飛びこんで・・・。


 頭の中には、さっき幸せそうに微笑む由紀と、彼女を照れくさそうに笑う夫の姿が浮かんでいた。


 奈央は今になって、由紀が好きだったのだと・・・。家族として、妹として・・・・。


「・・・・・・ばかだな・・・・・・」


 いつからだったのか、由紀がよく奈央にかまってくるのがめんどくさくなって、それが無性にいやだったのは・・・・・・。一人きりになりたいとは思っていたのに・・・・・・。


(うれしいんだな。姉貴が幸せそうで・・・・・・)


 うれしくて、どうしようもなく、悲しかった。自分の不器用な性格が・・・・・・。



 不意に、肩に叩かれて思わず振り向く奈央。

 そこにいたのは、奈央の泣いている顔を見て驚嘆の表情を浮かべる男が立っていた。

 確か、姉貴の相手の友人だったかな・・・。

 奈央は泣いているのを見られても、あわてるそぶりを見せずに、涙を拭いて・・・。


「・・・・・・何?」

「あ、いや、君が抜けていくのを見かねて、由紀さんが心配してて・・・・・・」


(かまうことはないのに・・・・ほんとうに・・・・)


「そう、ごめん。ちょっとね・・・・・・」

「・・・・・・ひょっとして、反対しているのか?由紀さんの結婚・・・・・・」


 その言葉を聞いた奈央はきょとんとした。


「誰が?」

「君が」

「なんでそうなるの?」

「いや、由紀さんと哲郎が・・・・」


 その言葉に、奈央は自嘲めいた笑みを浮かべて首を振った。


「そっか・・・そんなこと誰も言ってないもの。姉貴は姉貴の人生だから、うちがとやかく言うものではないよ」

「じゃあ、なんで抜けてきたんだ?」

「・・・・・・あのままいたら、泣いてしまいそうだったから」

「・・・・・・」

「うれしかった。姉貴が幸せそうに微笑むところが。そういうところがうちにとってうれしかった。そして、どうしようもなく、悲しかった」

「悲しかった・・・?」

「いつからだったのか、うち、姉貴にかまわれるのが、いやだったの。うっとうしくてね。姉貴が結婚するって聞いたときも、うちはなんとも思わなかった。なぜ、うちに許可を取らなきゃいけないんだって不思議に思ってたし、勝手にすればいいじゃないかって、答えてやった」


 彼は黙って聞いていた。


「その時の姉貴は悲しそうだった。うちの言った言葉がひどかったのか、それとも、ほかに何か言ってほしかったのか、わからなかった。うちにとって、わけのわからないまま、今日まできて、あの時、姉貴のあんな表情をみて、わかってしまった」


 いったん言葉を切り、次に口を開いた。


「・・・・・・おめでとうって・・・・・幸せになってくれって・・・・簡単なことだったのに、それさえも言わなかった。本当に、うちって、馬鹿だなって思ったんだ。そして・・・家族として、妹として愛していた事を・・・・今更ながらに、気づいてしまった。うちって、不器用だから・・・・」


 あとからあとから涙があふれてくる奈央を、男は黙ってハンカチを取り出して拭いてくれた。


「じゃあ、今から、言えばいいじゃないか。由紀さんならわかってくれるよ」


 優しく微笑む男に、奈央はしばらく見つめていたが、うなずいた。




 披露宴に戻った奈央と男は、奈央を由紀のところへ連れて行く。

 奈央たちに気づいた由紀と哲郎が向かい合う。


「奈央?どうしたの?気分が悪いの?」


 自分のことよりも相手を心配するところが、奈央はどうしようもなく、苦しかった。

 そんな奈央に力づけるように、男が軽く背中を叩いた。

 そんな男に振り向く奈央は男がうなずくのを見届けて、由紀と哲郎を見た。


「・・・姉貴」

「なぁに?奈央」


 微笑む由紀。


「・・・・・・おめでとう」


 奈央の言葉に驚嘆を浮かべる由紀と哲郎。


「今まで・・・ごめん。うち、姉貴の事、本当に好きだよ。幸せになって」


 由紀は口元に手をあてて涙をこぼす。

 奈央は哲郎に向けて、声をかける。


「姉貴を・・・頼みます」


 そういって、頭を下げる奈央。

 奈央の肩に触れ、顔を上げると、微笑んでいる哲郎がいた。


「もちろん。大切にする。必ず、幸せにするよ」


 その言葉に、奈央はうなずく。

 と、突然、奈央に抱きつく由紀。


「ありがとう・・・・ごめんね・・・・!!」


 奈央は優しく抱きとめて、背中に軽く叩いてやる。


「謝るのは、うちのほうだよ。ほら、泣くな。みんなが見てるよ」


 それでも離れようとしない由紀を、奈央は困ったように、照れくさそうに、哲郎に向けた。

 肩をすくめて見せる哲郎に、奈央はあきらめた。


(はぁ・・・・・こんなつもりではなかったのに・・・・・・でも、温かい・・・・・)



 由紀の温かい感触に、奈央は心に満たされていくのを感じていた。

 こんなに感じるのは、何年ぶりだろうと思いながらふと、周りを見回した。

 涙を浮かべて拍手を送る人たちがいて・・・・・・両親までもが微笑んでいた。








 最後に、写真を撮ることになり、奈央はなぜか、由紀の隣に座るように促された。

 もちろん断ったが、由紀の嘘泣き(?)にやられて無理やり座らせたということを追記しておこう。




END





あとがき〜

・・・一周年記念としての話がこんなので、いいんだろうか。
管理人の自分としては・・・。
まぁ、いいかな?


タイトルどおりではないですね。反省・・・。
姉に反抗している複雑な妹の心を表現してみたくて・・・。
まだまだうまくできないです。


では、最後までこんなふがいない話を読んでくれてありがとうございます。

 誤字、修正、感想、リクエスト等いただいてくださるとうれしいです。


H16.2.1 麓樹

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