第六話 苦闘の末、やっとスカルミリョーネを倒したセシルたちは、頂点に鋼色の塔が建っているところまでたどり着いた。 ようやくついたものの、入り口らしきものは見当たらなかった。 「入り口がないのぅ」 ヒゲに手をなぞりながら呟くテラ。 「入り口に入るための手がかりが必ずあるはずよ。それを調べないと後に進めないわ」 「そうだな」 レイアの言葉に頷くセシルは鋼の壁に触れた。 その時、触れたところからまばゆい光が放たれた。 「うわぁっ!?」 突然の光に驚き、セシルたちはまばゆい光に耐えきれずに目をつぶった。 白い光が彼らを包まれ、ようやく光が収まったところで、塔の前に立っていた彼らの姿が忽然と消えた・・・。
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光が薄れていくのを感じ、ゆっくりと目を開けると、そこにはセシルたちが映っているミラーガラスが張っている空間だった。 「ここは・・・・」 周りを見回しながらセシルが呟くと、傍らにいたレイアが口を開いた。 「なんだかよくわからないけど、おそらく塔の中ね」 「案外簡単に入り込めたようじゃが、何もない・・・が、とてもつない魔力がありふれておる」 めがねに手をやりながら感じ取る魔力のすごさにテラが高ぶった声をだすと、セシルが軽く驚いた表情を浮かべて、テラのほうに振り向いて訊ねた。 「そうなのか?」 「あぁ。わしよりもはるかにすごい魔力だ」 セシルの問いに頷くテラ。それに同意するようにレイアも両腕を胸の前で組んで頷いた。 「そうね。でもとても優しく、温かい魔力が包まれている感じだわ」 純粋に感心しながらミラーガラスのほうを見回すステラ。 二人のいうように、セシルはそこまで魔力を感じる力を持っていない。 けれど、ごくわずかではあるが、この空間には、どこかで感じた事がある。 それがなんなのか、わからないまま佇んでいた。
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『お前が来るのを待っていたぞ・・・・』 突然頭の中に声が響き、セシルははじかれたようにまわりを見回した。 けれど、セシルたちが映っているミラーガラスが張っているだけだった。 「貴方は!?」 「セシル?」 「どうした?何か聞こえるのか?」 セシルが突然口を開いたのをびっくりしたのだろう、レイアとテラが心配げにたずねられ、セシルは振り返った。 「!?聞こえないのか!?今の声が」 二人は互いを見合わせてセシルに振り向いて頷く。セシルだけが聞こえる事に驚くが、次の言葉が頭の中に響いた。 『私の声を聞くことができるのは、我が血を受け継げし者・・・我が息子であるお前たちだけだ。』 (息子だと!?) 息子という言葉が頭の中にこだました。 「息子!?貴方はいったい・・・・!!?」 姿の見えないまま、セシルは上を見上げて尋ねた。 セシルの問いに答えることはなく、一方的に話を続けていた。 『我が息子よ・・・これからお前に私の力を授けよう・・・。この力を与えることで私はさらなる悲しみに包まれるだろう。しかし、そうする以外に術は残されていない。』 それは悲しみの声にも聞こえた。 何故、そんな声をするのか、セシルにはわからなかった。 そこまで考える時間を与えるほどはなく、目の前に映っている暗黒騎士のセシルが鏡から這い出るように現れた。 「セシルが二人!?」 突然、鏡から這い出てきたもう一人の暗黒騎士が現れた事に、レイアとテラは驚嘆の表情を浮かべていた。 『さあ、血塗られた過去と決別するのだ。今までの自分を克服しなければ、聖なる力もお前を受け入れない。打ち勝つのだ……。暗黒騎士の自分自身に!』 すらりと暗黒騎士の剣が抜かれ、構えをとっていた。 「「セシル!!」」 レイアは剣を、テラはロッドを手にするが、セシルが両腕を横にだした。 「セシル!?」 「手出しは無用だ!これは僕自身との戦いだ!今までの過ちを償うためにも、こいつを・・・・暗黒騎士を倒す!!」 すらりと腰にぶら下げていたデスブリンガーを抜き出し、構えを取った。 セシルにいわれてしまっては、レイアとテラは互いに目配せをして引き下がった。 セシルのいうとおり、この戦いはセシル自身との戦いだとわかったから手を出す事はできなかった。 ただ、見守るしかできない二人。 セシルは目の前にいる暗黒騎士を見て、頭の中で考えた。 暗黒騎士は、セシルであり、セシルではない。 としたら、セシルのしぐさも行動も同じのはず。 確認のために、セシルはデスブリンガーの構えを変える。 すると、暗黒騎士も同じように構えを変える。 となれば、自分は暗黒騎士に勝つ事は・・・・困難だろう。 セシルは考える。 今まで、自分は陛下にいわれるままに従って行動してきた。 人を傷つけるために暗黒騎士になったのではなく、ただ、陛下を守りたいがために陛下の勅命を受け、進んできたというのに、結局人を傷つけるだけしかなかった。 ミシディアの件も、陛下の命令を受け、半信半疑ながらも実行した事を今更悔やんでも、すんでしまった事は仕方ないと思った。 いや、仕方ないのではなく、そうすることで自分を責めていた。 暗黒騎士である自分と、光を望む自分が二つに分かたれると、それは自分が自分ではなくなるのだろうか。 暗黒騎士である自分は、自分の弱い心を示すものだと。 ならば、逃げるのではなく、自分が暗黒騎士としてではなく、自分が自分であるために、弱い心を持つ自分を受け止める事は必然ではない・・・・? そう考えると、セシルは剣を下ろした。 セシルが剣をおろしたのを見ると、レイアとテラがあわてるが、セシルに手出しする事を止められているため、前に出ることはできなかった。 暗黒騎士が動き出し、剣を振りかざしてセシルに切りかかろうとした。 セシルが避けようともしないのを見ると、レイアとテラが叫んだ。 「「セシル!!」」 思わず顔をそらすレイアだったが、テラの声が響いた。 「とまった・・・・?」 レイアがその意味を掴み取るのに時間はかからなかった。 おそるおそるセシルのほうへ向けてみると、セシルの目の前に暗黒騎士の剣が数ミリ前まで止まっていた。 そして、暗黒騎士の剣が下ろされ、一歩後ろへさがり、セシルたちの目の前で、暗黒騎士の身体が右から塵となっていく。 暗黒騎士の姿が完全に塵となって崩れていった後、セシルの頭の中に声が響いた。 『よくやった・・・・。これから私の意識を光に変えてお前に託そう。受け取るがよい・・・。私の・・・・最後の光を!我が息子よ・・・・・。ゴルベーザを・・・・止めるのだ!』 声が、気配が薄れていくのを感じたセシルはあわてたように声をかけた。 「ま、待ってください!!」 だが、その声を聞き遂げる事はなく、ミラーガラスに発せられる光が、セシルの身体に包まれていく。 その光に包まれ、黒い甲冑から、蒼い模様がいくつか記されている白銀の甲冑に変化した。 少しの汚れもないまばゆいほどの、惹かれるほどの甲冑を身に纏うセシルの姿に、レイアとテラは我を忘れて見とれていた。 そう・・・・パラディンとなったのだ。 セシルの望んだ光の騎士パラディンに・・・・・・。
第壱部 完
あとがき H17.4.18up
やっと、第壱部終了!!! これだけで、2年近くもかかったのか・・・!? いや、更新していない時期があまりにも長かったから、無理もない・・・。 まぁ、一応一ヶ月に一話UPするよう努力してますが、なにぶん、他の作品にも取り掛からないと・・・。 さて、本題に入るとしますか。 いかがでした?最後のほうはなんだか無理矢理終わらせたって感じがするが、まぁ、そんなもんですかね。 で、パラディンとなりましたね!おめでとう!セシル!! けれど、これからが本当の戦いですよーー。 がんばってー!(つっても、作るのは麓樹ですが・・・(汗)) では、最後まで読んでくれてありがとうございます。 感想、ご意見、ご指摘、をいただけると嬉しいです・・・。 また次の話でお会いしましょう!! |