第壱章 平和の終焉


第壱話 レオナ女王













 大魔王バーンとの戦いが終結してから五年の時が流れた・・・・・・。



 世界の国々に平和の時代が流れているが、まだ完全になっているわけではなかった。


 わずかながらも魔物の生き残りがいたるところで暮らしているが、人間達にとっては恐怖の存在であり、憎しみの的でしかなかった。それは当たり前のことだろうが、憎しみは憎しみを呼び起こす。


 そんな人間に、魔物は過ごしてきた地を捨て、本来の地である魔界へ帰郷し、ほとんどの魔物は人間界にはいない。


 だが、人間界の中で唯一魔物にとっての楽園は、デルムリン島だけである。


 そう・・・かつて、勇者ダイが育ててきた島であり、豊かな平和なところである。


 そこに住んでいる魔物たちは人間達の国など興味がないように静かに過ごしているようだった。


 けれど、時折、親しいもの達だけ遊びに来る人間はごくわずかのみであり、温かく迎え、好意的に過ごしているのは間違いないだろう。





◆ ◇ ◆ ◇ ◆





 ・・・・・・一方、人間界の修復のために、力を注いでいる者たちがいたるところで活動している。


 その中のパプニカ王国では、一人の女性が治めている。


 その女性は、太陽の光を浴びてキラキラと輝く金色の長髪をした青い瞳の美しき人・・・レオナ。


 かつて、勇者・ダイと共に戦った知的な女性であり、パプニカ王国に愛されている存在である。


 レオナが女王として即位してから、四年近くたっている。そして、女王としての執務を務め、王国の中で起こった些細な喧騒も、他国との同盟も友好的で治めている。


 執務室の中で書類の処理をしているレオナの傍らに、二人の賢者・・・アポロとアケミがその手助けをしていた。








「レオナ様、一週間前の依頼の件ですが、先ほど調査した結果、地帯の歪みによって崩れたとの可能性があるそうです。今後、続ける予定ですが、いかがいたしましょうか?」


「そうね、念のため、続けて。以後、同じ事が起こるかもしれないし。その対策として考えなければならない。そのためのデータが必要ね」


「はい。それは我らも同感です。ですが、予算が複雑なようで、どれほど必要か、どうしますか?」




「予算ね・・・・。一応、最低限に抑えたいけど・・・・」




 眉をひそめて額に人差し指を押さえて考え込むレオナ。




「うーん・・・・。あぁ、そういえば・・・・・北の山で手に入れたやつがあったわね。今のところはどれくらいあったかしら?」




「北の山ですか・・・。アケミ」




 アポロがアケミに振り向いてたずねると、アケミが応えた。




「たしか、万単位で、桁が七個あったと記憶しています。まだ増える予定ですが・・・」




「では、ソレを少々まわしていいわ。ただし、無駄な使いは禁物よ。違反したら、それなりの罰は与えるとね。まぁ、ソレはないでしょうが」




 冗談めいた脅しの声に、アポロとアケミは苦笑を浮かべて、頷いた。




「わかりました。そうならないように、監視は続けておきましょう。すぐに取り掛かりますが・・・」




「ちょっと待って。えっと・・・。あったわ。これをこうして・・・・。っと、おわったわ。はい」




 ごそごそと重ねている紙の山から一枚取り出して、ペンとサインを付け終わってから、アポロに差し出した。


 その紙を受け取り、執務室を後にする前に会釈して出ていくアポロを見送るレオナとアケミ。





◆ ◇ ◆ ◇ ◆





 一通り処理を終えたレオナは椅子に背もたれしながら息を軽く吐いた。


 そんな彼女にアケミは微笑を浮かべて、傍らにある飲み物を用意し始めている。




「お疲れのようですね。ひとまず飲み物を用意していますが、いかがいたします?」


「いただくわ」




 アケミの言葉に答えるレオナが微笑みを返すと、すぐにグラスに果物を搾ったものを注いでから彼女に渡した。


 お礼を述べてからそのグラスを受け取り、口元に運んでいく。


 一口、二口飲み、生き返ったかのように息を吐いてから、窓の外のほうに瞳を向けていくレオナ。


 どこか遠い瞳を浮かべるレオナの横顔を見たアケミは思った。




(・・・・・まだ、忘れられないのですね・・・・彼のことを・・・・。早く帰ってきてください・・・・。レオナ様があまりにも・・・・・)




 痛まれない心境を抱えるアケミは、同様に窓の外に向けて、どこまでも続く青い空と、横切る白い雲が流れている様が目に見えた。




 アケミの心境を気づいていないレオナはアケミに振り向かずに、口を開いた。




「アケミ」




「はい」




 名を呼ばれて応えるアケミは窓からレオナに顔を向けた。






「彼女は、相変わらずなのね?」






 彼女とは誰を指しているのか、アケミにはわかっていた。


 ためらいつつも、正直に小さく答えた。






「・・・・・・・はい・・・・・・」




「そう・・・・・。難しいものね・・・・。人の心は・・・・」




 かすかに怒りと哀しみを混ざり合った声が響いた。




 が、それだけではなく、同情にも聞こえたのは気のせいだろうか・・・。






 レオナは、時折思う。




 人の心とは変わりやすく、弱い生き物であり、一人では生きて行けない。


 仲間がいても、誰よりもそばにいてほしい人が、今はいない。


 そして・・・・数ヶ月前に出会った彼に、懐かしさと愛しさを感じる自分が存在しているのを自覚していた。


 彼は、愛しい人とは違うのに、どうしてこんなにも惹かれるのか、自分の心の変わりように腹立っていた。もう、五年近くたっているのに、愛しい人の情報は一つも見つからなかった。




 もしかしたら、もう二度と帰ってこないかもしれない。




 マイナス思考に向いてしまうことに気づいたレオナは軽く首を振った。




 突然首を小さく振ったレオナに、アケミは何も言わなかった。


 声をかける言葉が見つからないからだ。




 残りを飲み干したレオナはグラスをアケミに返して、再び仕事に取り掛かり始めた。


 それはまるで、考えることから逃げるように仕事にとりかかる様だと、アケミは思った。




 だが、何も言わずに、グラスを静かに下がらせて、書物を手にかけて読み始めた。




 数時間後、面会を望む者が訪れるまで・・・・・。





























後書き・・・



・・・・・・。
はっ、とりあえず、本編の始まりです。
なかなか難しいものですね・・・。
レオナ、アケミ、アポロの三人だけ登場ですが、 他の人は多分、一人は少なくとも判ると思いますが、その正体はいずればれますね・・・。

えっと、レオナは彼の帰りを待ちながらも、他の人に惹かれているのって、案外あるかもしれないですよ。
原作ではありえないだろうけれどね・・・・。注意で書かれたとおり、本当にパワレルなんですからね。


では、次の話で逢いましょう。

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