第壱章 平和の終焉


第弐話 ポップ













 テラン王国のふもとで、一時休息を取っている二人の男女がいた。


 若葉色のローブを身に纏い、腰のところに二又の槍に黒い棒・・・ブラックロッドをおさめている青年と、もう一人はユリ色のシルクのワンピースを身に纏う、艶のある長い黒髪と黒い瞳の女性が連れ添うように湖のそばに腰を下ろしていた。






「ポップさん、どうなさいました?」




「ん・・・久しぶりにゆっくりできるなぁって思ってな」






 ポップと呼ばれた青年の腕が、黒髪の女性・・・メルルの肩を抱き寄せた。






「そうですね・・・。ずっと、旅を続けていたんですもの。休む間もなく、世界の修復と・・・ダイさんを探しながら・・・・」




「もう、世界中探し続けていたが、情報も手に入らず、どこにもいない。もしかしたら・・・・ロン・ベルクの言ったとおり、この地上ではなく、天界か、魔界にいるかもしれない。だが、その方法を見つけたとしても、魔界には俺達人間に対して敵意を抱いている者が少なからずいるだろうから、無理かもな・・・・・・。天界はわからないが」






 苦い顔を浮かべながら口惜しく話すポップに、メルルは肩に頬を寄せて口を開いた。






「天界ですか・・・・。私達にとっては遠い世界です。認められし者と命を失った者しか入られないと聞いておりますが、その方法すらもわかりません」




「まるで、竜の騎士の神殿と同じだな・・・・・」






 空から湖の奥底に瞳を向け、ひどく懐かしく思い出すような表情を浮かべるポップ。




 その瞳には湖を映していなかった。




 勇者であり、親友であるダイが自らの出生の秘密を知るきっかけとなった出来事と、ダイの父バランとの戦いを思い出しているのだろう。


 あれは、ポップにとって忘れられない出来事だった。おそらく・・・・いや、当時そこにいたレオナや、クロコダイン、そして・・・・。




 身動きすらしないポップに、メルルは何も言わず、ポップのそばに寄り添っている。




 そうする事しか思いつかなかった・・・・・・。





◆ ◇ ◆ ◇ ◆





「・・・・・・ん?あれは・・・・」






 何気なく空を見上げて白い鳥が飛んでくるのを見つけたポップのつぶやきにつられてメルルもその視線を追った。






「伝書鳩・・・・・・ですね」






 メルルの言葉に頷いて、白い鳥に向けて右手を掲げた。




 すると、伝書鳩がポップの掲げている手に向かってゆっくりと近づいていき、ばたばたと羽ばたかせながら、ポップの指にとまった。






「どなたからかしら?」






 メルルの疑問に答える事はなく、伝書鳩の足に目を向けると、小さな円筒がついているのを確認して、空いている左手で小さな円筒をはずした。


 そして、伝書鳩を乗せた右手が、自分の肩のほうへ移動させてから小さな円筒のふたをあけ、中から丸めた小さな手紙を取り出し、両手で広げて一番上に書いてある文字を見て答えた。






「リックス神殿のブリズからだな」




「ブリズさんですか」




「あぁ、どうし・・・・・・・・・」






 続けようとした言葉が途切れ、疑問に思ったメルルがポップの表情を見て、ただならぬことを感じ取ったのだろうか、心配げにたずねた。






「・・・どうしたのですか・・・・?」






 メルルに答えるまでしばらくの間があいた。




 時間的にはほんの数秒だったろうが、長く感じられるのは気のせいだろうか。




 手紙からメルルに向けて真剣な声を出した。






「・・・・・リックス神殿に異変が起こったらしい。すぐに向かうぞ」




「リックス神殿が・・・?わかりました。おばあさまに伝えてきますから、少し待ってください」




「あぁ。それと、魔の石を持ってきてくれないか?もしものときのためにな」




「はい」






 小さく頷いて、メルルの祖母のいる家へ走っていく彼女を見やるポップは、手に持った手紙に目をやり、難しい表情を浮かべていた。




 リックス神殿で彼らは信じられないものを目のあたりになることを知らずに・・・・・・。














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後書き・・・
H17.2.20up



・・・・・・。
やっと更新しました・・・。

では、次の話で逢いましょう。

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