第伍話 ポップ(2)














 ザザッ・・・!












「いてて・・・・っメルル、大丈夫かっ」




 見事に地に顔を当たり、涙を浮かべながら鼻をさすって、メルルのほうに振り向いて声をかけると、座り込んでいるメルルが安心させるように微笑んで答えた。




「えぇ、ちょっと足をすりむいた程度ですから、大丈夫ですよ」


「そうか、ごめんな」


「いいえ。久しぶりの移動呪文を使ったのですから、無理のないことですよ。でも、幾分かマシではないですか?」


「まぁ、久しぶりだし、けど、怪我をさせてしまったのは俺の責任だ。ごめんな。メルル」




 メルルにそういわれても、ポップは男としてのプライドがそれを許さなかった。


 ポップの謝罪に、メルルが気にしないでといおうとしたが、二人に名前を呼ばれた声がして同時に振り向いた。




「ポップ殿!メルル殿!」




 薄い黄土色の麻の服を身に着けている男が駆け寄ってきた。




「ブリズ」




 ポップが彼の名を呼ぶと、ようやく二人の三歩前まで足を止めて一礼した。




「お待ちしておりました。ポップ殿、メルル殿」


「あぁ、待たせたな。それで、なにが起こったというんだ?」


「話をする前に、見て欲しいものがあります。こちらへ・・・・」




 話をするよりも何かを見せてからのほうがいいだろうと考えたブリズは、ポップたちをリックス神殿の入り口へ案内した。


 歩いていくにつれて、いくつかの樹木が道沿いに並べられ、その真正面の向こうに白い建物が見えた。


 近づけば近づくほど、白い建物・・・・リックス神殿のひどい有り様に眉をひそめるポップ。


 入り口のところまで到着し、ポップが声をかけた。




「・・・・・・どういうことだ?何故・・・・」




 ポップに振り返らずにそのまま前を見据えて歩きをとめないままかえってきた。




「一週間ほど前になりましょうか、いつものように定期的に我らが警備のためにこの地に赴いたのですが、すでに見たとおりの状況でした。その時はなにが起こったのかわからなかったのですが、神殿の中にいる巫女の身を案じて、中に入ったんです」




 入り口の中に入っていくポップたち。


 上を見上げると、天井がほとんどなくなり、白い柱が折れ、神の彫像であろう・・・の無残な姿が一人寂しくたっていた。




「ここで、巫女が倒れていたんです」




 ブリズが指差した先を見ると、わずかながら黒いしみが残っていた。


 黒くなっているが、おそらくは血の跡だろう。巫女の・・・・・。




「駆けつけたときには、すでに巫女は事切れていました。剣で心臓を貫かれたあとがありました」




 口元を手で覆うメルルは、悲しそうな瞳で見つめていた。




「私は共に来ていた同僚に、彼女を任せて、封印の地へ赴いたんです。だけど・・・」


「だけど・・・・?」


「封印の地が崩れていたんです。いえ、入り口がというべきでしょう」




 それは封印の地へと続く地下の階段が崩れたということだった。


 そんなことができるのは、巫女を殺した張本人か、または封印がとかれた者のどちらかだろう。




「・・・・・つまり、封印がとかれた可能性はあるということか?」


「はい」




 ポップの問いかけに肯定するブリズに、ポップはただの瓦礫の姿しか見えない封印の地への入り口を睨んでいた。


 ふと、服の裾を引っ張っているのを気づいたポップはメルルに振り向いた。




「メルル?」




 メルルの顔を覗き込んでみると、蒼白な顔をしていた。




「何かを見たのか・・・・?」




 蒼白な顔で目の前の瓦礫のほうを見据えて頷きながら答えた。




「はい・・・・・。はっきりと姿が見えませんが・・・・・・黒いフードを覆った者が・・・・・赤い線・・・・・・《魔方陣》から・・・・・何かが禍々しいものが這い上がって・・・・・ブラッド・ルビーの二つの光が・・・・・・」




 ブラッド・ルビーという言葉を聞いて、ブリズの顔が蒼白に変わった。




「ブラッド・ルビー・・・・!?」


「ブリズ?」




 ブリズもまた蒼白になっていて、ポップは彼がなにを思ったのか、ピンと気づいて問いかけるように声をかけた。




「・・・・・封印されし者か?」


「はい・・・・。ポップ殿、メルル殿、ここは離れたほうがいいでしょう。メルル殿が見たものが真実だとしたら、封印がとかれたという事に間違いはないでしょう。それに、もしかしたらまだ他にも出てくるかもしれません」


「そうだな。ここにいると危ないだろうし、さっきからいやな予感がしてならない。離れるぞ」




 ブリズの進言に同意するポップは二人を促してリックス神殿を後にしようと足を踏み出した。
















――― そうはいかんな ―――
















 どこからともなく、ポップたちの頭に響く静かな冷たい声にびくっと身体をふるえさせた。


 が、それも一瞬の事で、ポップが周りを見回して叫んだ。




「誰だ!!?」
















――― せっかくでられたんだ。その挨拶代わりとして、少し付き合ってもらうぞ ―――
















「どこだ!?姿をあらわしやがれ!!」
















――― そう、わめくな。ここにいるじゃないか ―――
















「ポップさんっ!あそこに!!」




 メルルの指差す方向に目を向けるポップとブリズ。


 そこには神の壊れた彫像の上に、異様な模様の記された紅の胸当てを身についている戦士風の男がひざを組んで座っていた。


 灰色と茶色の混ざった肌色に、焦げ茶色の髪を後に束ねている。


 唯一つ違っているのは、その顔が、人間の顔ではなく、獣の顔だった。


 灰色の毛にいくつか黒い稲妻が描かれている狼の面立ちだ。


 そして、瞳の色は・・・・赤かった。


 メルルの見たブラッド・ルビーの瞳だった。


 としたら、封印されし者のうちの一人だろう。




「お前・・・・」




 おそらく笑っているのだろう、口元がにやけている。


 その笑みをみて、ポップたちは背筋に恐怖が走るのを感じた。




「感謝するぞ。愚かな人間の行いで我らの封印をとかしてくれた事を」


「何者だ・・・!」




 メルルを庇うように立ちながら懐にあるブラックロッドを手にして構えを取って、彼をにらむポップ。




「我が名は、闇の一族・ライディヴ。貴様の力を見せてもらうぞ・・・・!」




 ライディヴの右手がゆっくりとポップのほうへ向けられ、何かを呟いた。










【闇神の名において命ずる 天空よ 疾風よ 我が敵に放て      空風撃(エンウィド)!!】










 最後の言葉を叫んだと同時に、手から疾風が発せられ、ポップたちに向かっていく。


 いち早く気づいたポップはブラックロッドを前に突き出し、魔法の鏡・・・マホカンタを唱えた。


 ほぼ同時だった。


 ライディヴの放った疾風のすさまじさにポップはかろうじて耐えていた。






「くぅぅっ!!」




 ライディヴが再び呪文を唱えている事に気づいたが、一足遅かった。










【疾風の如く 我が敵を裁け      爆風裂撃(ブレスティアス)!!】










 先ほどの魔法とは比べ物にならないほどの爆風がポップたちを襲った。


 マホカンタが爆風に耐え切れず、ヒビが割れてしまい、爆風がポップたちを吹き飛ばされた。






「うわぁぁぁぁぁぁ!!」


「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」






 後ろへ吹き飛ばされ、壁に背を打ってしまい、身動きが一瞬取れなかった。


 激しい衝撃のせいで、すぐに動ける状況ではなかったが、かろうじて腕を立てて立ち上がろうとするポップの姿に、ライディヴは口に笑みを浮かべて眺めていた。


 ポップはちらっとメルルとブリズのほうを見ると、メルルは衝撃のためか、意識を失っており、ブリズは痛みで顔をゆがんで立ち上がろうとしているところだった。




「立つだけで苦しいようだな。・・・・・あぁ、そういえば名を聞いていなかったな」




 思い出したそぶりを見せてポップを見据えていた。


 その血のような赤い瞳に見つめられ、ポップは表現できないくらいの感覚に陥った。


 そんなポップに気づいているのか気づいていないのか、平然としているライディヴ。




「・・・・・・・・・ポップというのか」




 名乗ってもいないのに、何故自分の名前がわかったのか、疑問の目をぶつけるポップに、ライディヴは先ほどと変わらない笑みを浮かべていた。




「何故わかるんだって顔してるな。ま、そんなのはどうでもいいさ」




 ひざを下ろしてゆっくりと壊れた彫像から降りて、両手を広げた。




「まだ始まったばかりだ。俺を楽しませてくれよ」








 ポップにとっての第一の戦いが始まった・・・・・・・。











続く...


後書き・・・(反転)
H17.5.3up


何とかUPできた・・・・。
リックス神殿での出来事ですね。
あぁ、ほんとに戦闘シーンは難しいよぅ。
なかなか思うようにうまく浮かばないなぁ。


ところで、敵キャラが出ましたねぇ。風の魔法使いというか、戦士もかねていますね。


最後まで読んで下さってありがとうございます。

では、次の話であいましょう。

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