第壱部 第壱話


 全身赤に包まれ黄色の鋭いくちばしと黒い瞳をした一匹の鳥が、心地よい風の流れにそって気持ちよさそうに飛んでいる。

 目的に向かうのではなく、風の行方に流されていくようにも見える。

 赤い鳥が目の向こうに何か生き物ではない物が見えた。


 ―――なんだろう?


 もっとよく見てみたいのか、スピードを上げて近づいていく。


 ―――『船』だ。


 最初に頭の中に浮かんだのはその言葉だった。

 が、たしか、「海」でしか動かないのではなかったか?

 赤い鳥の思考に疑問が浮かんだ。

 よくみてみると、「海」の船にはない「動いている丸いモノ」がいくつかあった。

 赤い鳥は名前を知らない。

 それは『プロペラ』だった。

 大小あわせて七個のプロペラが目にとまらない速さで動いている。

 それによって空を飛ぶことができるようだ。

 赤い鳥は興味深そうに眺めて、船…『飛空挺』の端っこに足を下ろした。

 舵を操縦している男が赤い鳥に気づいたのか、和やかな表情を浮かべて見つめていたがそれも一瞬のことで、再び真正面を向く。


 ―――黒い『ニンゲン』ばかりだ。


 人を見てそう思った。

 黒い鎧を纏っている者たちがあちこち配置についている。

 赤い鳥は怯える様子もなく、ただ眺めているだけだった。

 くるりと見まわすように首を回してみると、甲板の中心に身動きしない者がいた。その者は、舵をいじっている者とは違って全身を漆黒の鎧を身に纏い、顔も覆いつくす兜に角が二つ付いており、漆黒のマントが風になびかせている。見た目では恐れをなす姿に見えた。

 彼と同じ姿をしている者はいない。

 彼の視線が赤い鳥に向けられたとたんに、赤い鳥は身体全体が固まった。

 彼の銀色の瞳の中に恐怖を感じたのだろうか。

 いや、それだけではない。彼の秘められた奥底に拭い切れない色に敏感に感じたのだろう。

 ほんの一瞬だったのだろうか、視線をそらしたのは彼のほうだった。

 別に気にした風でもなく、行く道を見据えている。

 視線をそらしたおかげで、赤い鳥は身体全体に血が再び活動しはじめた気がした。
 それほどに恐ろしかったのだろう。これ以上、ここにいたら自分の命がもたないと思ったのか、羽を広げて逃げるようにこの場から離れて飛んでいった。


 『飛空挺』の方に振り返ることはなく、飛んでいく途中で一つの言葉が浮かんだ。



 ―――『暗黒騎士』と・・・・・




第壱部

―第壱話―





 ドオォォォンッ!!


 凄まじい音と激しい飛空挺の揺れに倒れないように手すりや壁にしがみつく者たち。

 飛空挺の甲板の中心にいる暗黒騎士であるセシルが傍らにいる少女を抱きとめながら口を開いた。


「何事だ!?」

「隊長、大変です!後方からバロン国の追手です!」


 飛空挺・・・『赤い翼』の後方に立っていた兵士が答える。


「数は!?」

「三機です!色は・・・『青い翼』です!!」



 『青い翼』・・・・・・


 バロン国において飛空挺団を率いるのは『赤い翼』と『青い翼』の二つだけ・・・・。


「『青い翼』の攻撃をかわしつつ、反撃を開始せよ!北東から南東へ針路変更!彼女を無事地上へ届けるまで持ちこたえてくれ!」

「了解!!」


 総員反撃しつつ、『青い翼』の攻撃に押されていた。

 隊長と呼ばれたセシルは傍らにいる少女を優しく抱きとめていた。

 森の妖精のような容貌をした緑色の髪と葡萄の色の瞳をしている少女が不安そうに見上げている。
 セシルにしがみつく少女を安心させるように抱きしめてやり、声をかけた。

「大丈夫。心配しないで。何があってもリディアだけは守ってあげるから・・・」

 外見とはちがって、澄んだ優しさの声に、リディアは頷いた。



 『赤い翼』と『青い翼』との戦いは続いていた。

 『青い翼』の攻撃により、『赤い翼』の被害がひどくなっていき、墜落するのも時間の問題だった。


「隊長、このままでは無理です!!彼女を連れて逃げてください!!」


 兵士の一人が叫ぶ。


「ばかな!お前達をおいて逃げるわけにはいかない!」

 セシルが反対するが、兵士達は微笑んでいた。

「隊長はこんなところで死ぬべき人ではありません!バロン国王の正体を突き止めることができるのは、隊長だけなんです!!それに、彼女を守ると約束したんでしょう?」


 その言葉に、息を呑む。


「お前達・・・・・・知って・・・・・・?」

「僕達は、貴方が好きなんですよ。隊長でもなく、暗黒騎士でもなく、ただのセシルさんとして、僕たちは貴方を信じていますから・・・どうか・・・」

「お前達・・・・・・」




 しばし沈黙がながれ、爆撃の音がやまない中で、一人の兵士が手を傷つきながらも声をかけた。


「準備ができました!隊長、早く!!」


 セシルは唇をかみ締めて、リディアを促した。


「いやだよ。ねぇ、みんな逃げようよ!」


 泣きながら訴えるリディアを、セシルは小さな声でつぶやいた。


「ごめん」


 リディアの体が崩れるのを抱きとめて横抱きにした。


「すまない・・・」


 色々な意味を込めてセシルが兵士達に口を開く。


「彼女を、守ってくださいね。貴方の罪は、僕達の罪でもありますから・・・・・・どうか、自分を責めないでください。僕達は貴方と共に戦い、過ごしたことが幸せですから・・・」

「・・・・・・ああ・・・・・お前達を絶対に忘れない。お前達こそが、僕の最高の仲間だ。・・・・・・また会おう」


 最後の言葉はかなえられないが、セシルなりの励ましだった。


「ええ、また会いましょう。いつかどこかで・・・・・・。」


 セシルは踵をかえして人間二人分乗れそうな飛行機に移り、『赤い翼』から離れて飛んでいく。

 セシルは振り向かなかった。振り向くことさえできなかったのだ。

 ただ・・・言いようのない悲しみと怒りと憎しみが渦巻き、目的地へと向かっていく。



 セシルたちが乗った飛行機を見送り、兵士達はすぐに覚悟を決めた顔を浮かべて叫んだ。


「我ら赤い翼の底力をみせてやろう!!最後のフィナーレだ!!」

「おおおおぉぉぉっ!!!!」


 ありったけの叫びを上げて赤い翼は青い翼に突っ込んでいく。

 青い翼の攻撃に耐えながらも、真っ向にすすみ・・・・・・。



 瞬間



 赤い光があたりに包まれた。






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あとがき・・・

やっと本編が始まりました!
どうやら思ったより予定通りにいかない事が痛いほど身にしみました。
その面に対しては申し訳ないです。

さて、ゲームとは違った内容でいってみようとは前回で話したとおりですが、話の構造をころころ変わってしまうところがありますので、きっとめちゃくちゃな物語になると思います。
オリキャラも出てくるかもしれないし、ゲーム本編に沿って進んでいく面もいくつかあるでしょうが、とりあえず最後まで見守ってくださるとうれしいんですが・・・。

誤字、修正、感想、リクエスト等いただいてくださるとうれしいです。


H15.11.30 麓樹