第壱部 第参話

第壱部 第参話




 バロンの軍隊が攻め込まれ、ファブールの僧兵たちは迎え撃つが、あまりにも多勢に無勢だった。

 前線に立っていたセシルとヤンたちさえも限界が近づいていた。

 戦い続けながらセシルはさらなる疑問を持ち始めている。

 バロンの軍隊は人間ばかりか、魔物までも混じっていることの事実に衝撃を感じていた。


「くぅっ、このままでは持ちこたえん!城の中へ下がるぞ!!」


 ヤンの指示に従い、僧兵たちは敵の隙をついて城の中へ退避していく。

 敵が衰える気配を感じさせないほど抑制させられ、ついにはクリスタルルームへと退避してしまった。


 クリスタルルームに敵が現れたのは、セシルの良く知った人物だった。


「カイン!」

「久しぶりだな。セシル」


 竜騎士カイン・・・深青の甲冑を纏った槍の使い手・・・。

 そして、セシルの幼馴染であり、良き友で良きライバル・・・・。

 何故、カインがここにいるのか、セシルは疑問を持った。

 再会できたのは嬉しいが、こんな時にカインが現れてくるなんて、あまりにもおかしすぎる。


「カイン、まさか、お前・・・」


 セシルの伺うような口調に、カインは顔を上半分隠しているものの、下部分は笑みを浮かべていた。



 悪戯を見つけたような笑みに、セシルとヤンは背筋に悪寒が走った。



「ゴルベーザ様の命により、クリスタルを頂きに来た。セシル、―――どけ」



 幼い頃より共に過ごしてきた中で、カインの冷たい声を初めて聞いたセシルは一瞬戸惑ったが、すぐに気を取り直して、道をふさぐように立ちながら口を開いた。



「カイン、馬鹿な真似はやめるんだ!それに、ゴルベーザとは誰だ!」


「俺は正気だ。ゴルベーザ様は俺の従う存在・・・主だ」


「なんだと・・・!お前の主だって言うのか!?人を殺してまで、クリスタルを奪って何をする気なんだ!?お前は知っているのか!?」


「さぁな。裏切り者のお前に話す必要はない。邪魔するなら・・・、お前から消してやる」


 いい終わらないうちに、カインの槍がセシルの胸をめがけて突っ込まれる。

 その攻撃を剣で受け止めるセシル。




 ガキィッ!




 刃が交わり、セシルの剣から火花がいくつか散っていた。



「そういや、お前との決着はまだついてなかったな。ちょうどいい。一騎打ちだ」

「本当に、カイン、お前なのか!?」


 信じたくはなかった。あれほど温厚なカインが、何をそこまで変わったのか、わからない。

 だが、これが現実だと思い知らされても、セシルはまだ踏み出せずにいた。

 カインの攻撃をひたすら受け止め続けていく・・・。


「どうした?お前の実力はこんな程度なのか?」


 そんなはずはない。お前はもっと強かったはずだとでもいうように、苛立ちを隠しきれずに槍を上へなぎ払うように大きく振った。


「しま…っ」


 セシルの剣が弾き飛ばされ、一瞬剣に目を向けた。

 その瞬間を見逃さずに、カインの蹴りがセシルの鳩尾にうちこまれ、4メートルほど飛ばされてしまった。


「セシル殿!!」


 ヤンが駈け寄る。


「邪魔するな!」


叫びながらカインの槍の攻撃をヤンは間一髪でよけたが、その行動を見透かしたかのように、反対側の槍の柄をひっくり返してヤンの腹にぶち込んだ。


「ぐふっ!」


 腹を打ち込まれ、さっきのセシルと同様に後へと飛ばされた。


「ヤン・・・!」


 鳩尾に手を押さえながら起きかけのセシルがヤンを呼んだ。

 よほどの痛みだったのだろう。うめき声が漏れているヤン。

 カインは一瞥をくれてやると、セシルに目を向けて近づいて槍を振りかざした。


「失望だ。これで終わらせてやる」



「―――ファイア!!」


 突然、炎の玉がカインに向かっていく。

 カインは自分に向かってくる炎に気づき、後へと下がった。


「誰だ!?」


 放った方向に目を向けると誰もいなかった。

 セシルの方向に振り向くと、庇うように立っている緑の髪の少女がロッドを右手に持ち、カインを睨んでいた。



(―――子供!?まさか、さっきの魔法は・・・こいつが!?一体、誰だ?)


 カインは自分を睨んでいる少女があれほどの炎の魔法を放ったことに内心動揺を覚えていた。


「リディア・・・だめだ・・・」


 苦しげにリディアに下がろうと促すが、リディアは首を振って拒否した。


「セシル兄ちゃんを殺させない。約束したもの!」



(――兄?妹などいなかったはずだ。一体・・・?)



 少女の言葉を聞き取ったカインは考えをめぐらした。


「何をしているのだ、カイン」


 静かな冷たいほどの声を耳にし、セシルたちは入り口のほうへ目を向けた。

 現れたのは、全身が紫色の甲冑で覆われ、顔までも隠している。ただ、兜に二つの穴から背中に悪寒が走るほどの冷たい赤い色の瞳が覗かせ、畏怖を感じさせられずにいられなかった。


「ゴルベーザ様」


 カインの言葉に、セシルはつぶやいた。


「貴様が・・・・ゴルベーザ・・・・!」


 怒りの瞳を向けながらも、心の中で戸惑いを覚えた。

 暗黒騎士であるがゆえに、悪の力の差を感じ取り、自分より遥かに強いと思った。だが、それ以上にもっと深い奥底で、不思議な感覚を感じさせずにはいられなかった。

 初めて会うはずなのに、何故こんなに心がざわめくのか、わからなかった。

 そんなセシルの心境を誰も知るよしがなかった。

 ゴルベーザはセシルたちに目を向けず、カインに命令を下した。


「カイン、邪魔者はほうっておけ。クリスタルをとってくるのだ」

「はッ!」


 胸に手を当て頭を下げるカインは、クリスタルの置かれているほうへ向けて足を踏み出した。


「そうはさせぬ・・・・!」


 まだカインにやられた攻撃の震えがまだ残っているのか、よろよろと立つのがやっとのヤンが行く道阻むように立っていた。うっとうしげに舌打ちをするカインが手を下すよりも早く、ゴルベーザの放たれた雷の魔法により、吹き飛ばされた。


「ぐわぁッ!」

「ヤン!」


 カインの攻撃よりも遥かに数倍はあったであろう、壁までふきとばされた。

 ヤンの口元から血が溢れていた。そのままうつ伏せになり、少しも動こうとしないヤンを、セシルは自分の弱さに怒りを感じていた。



 カインはクリスタルを手に入れ、ゴルベーザに振り向いた。


「ゴルベーザ様、確かにクリスタルを手に入れました」


 カインの言葉に気を良くしたゴルベーザは次なる言葉を発した。


「うむ。もう、この城に用はない。引き上げるぞ」

「はッ!」


 ゴルベーザがクリスタルルームを去っていき、その後を追うカインはリディアに起こされているセシルに向けた。


「命拾いしたな。セシル。今度会った時こそ、必ず俺の手で殺してやる。それまでにあがいてみせろよ」


 そういい残して去っていくカインを、セシルは呼び止めたが、反応はなかった。

 セシルはクリスタルを守れなかった悔しさと、カインの変わり果てた姿にショックを隠しきれず、唇をかみ締めていた。


「リディア、ヤンを・・・!」


 セシルがリディアをヤンに回復魔法をかけてくれと言い、リディアは頷いてヤンの元へ駆け寄った。

 ヤンの横にひざを下ろして両手を向かい合わせ、呪文を唱えた。


「―――ケアル!」


 両手から白いまばゆい光が放ち、ヤンの体にしみこまれていく。




 一瞬だった。




「・・・う・・・?リディア・・・殿?」



 ゆっくりと体を起こすヤンは今までの痛みが嘘のように消え、リディアに回復魔法をかけられたことを知った。だが、疲れだけはまだ残っているようだった。


「感謝いたす。リディア殿」


 礼を言うヤンに、リディアは安堵したように微笑んで、セシルのところへ戻った。

 ヤンもリディアのあとを追い、回復魔法を受けているセシルもまた、起き上がった。


「ありがとう、リディア」


 リディアに回復してもらったセシルは、クリスタルを守れなかった悔しさを味わっていた。それはヤンもリディアも同様だった。

それよりも、セシルはカインの変貌とゴルベーザに対する不思議な感覚に戸惑っていた。とたん、古傷がうずくのを感じた。

 無意識に右肩に手をあてるセシルのしぐさに、リディアは心配そうに声をかけた。


「セシル兄ちゃん、まだ痛いの?」

「あ、いや、なんでもないよ」


 軽く首を横に振って、ヤンに語りかけた。


「クリスタルはまた取り返せばいい。まだ遅くはないはずだ」


 セシルの言葉に、ヤンとリディアは頷いた。


「うん!」

「セシル殿のおっしゃるとおりだ。今度は我々が力になる番。クリスタルを取り戻す方法を考えましょう」

「ああ。ありがとう」






Game-Menu --- back --- next


あとがき・・・・

 二ヶ月ぶりのFF長編です。

 ゴルベーザとカイン登場しましたね!

 でも、セリフが少ない・・・。おまけに、セシルとヤンやられっぱなし・・・。
 かわりに、リディアがセシルを庇うところが・・・。
 うーん、いいなぁ。(うっとり)

 さてと、次は・・・どうなることやら。


 最後まで読んでくださってありがとうございます。

誤字、修正、感想、リクエスト等いただいてくださるとうれしいです。


H16.3.14  麓樹