第肆話









 セシルたちはファブール国から船でバロン国へ向かう途中、大海原の主であるリヴァイアサンの遭遇により、灘波にあってしまった。


 気づけば、ある浜辺でセシル一人だけが残されていた。


 共に船に乗っていたリディア、ヤン、船長、船員達の姿が見えなかった。


 彼らを呼んでも探しても見つからなかった。


 死んだのか生きているのかわからないが、生きててほしいというわずかな希望を胸に刻み、セシルは村を探しに浜辺を後にした。






 一日かかって、一つの小さな村を見つけた。


 村の中に入ったとたんに、声が聞こえた。




「おい、黒戦士」




 セシルは立ち止まって周りをきょろきょろ見回したが、誰もいない。


 首をかしげて足を動かそうとしたとたん、また声が聞こえた。




「おいおい!ここだ」




 最初の声よりも大声が聞こえ、セシルはもう一度見回したが、同じだった。まさかと思いながら、足元へ見下ろしてみると、小さな人型の男がいた。


 薄い茶髪の一束をくくったごっつい体格の男だった。






 小人族だ。






(ということは、ここはミスリルの村か)






 頭の中で地図を浮かべて、ファブール国よりずっと南の方の小さな島の1つだとセシルは思った。




「黒戦士、どうやってここまで来たんだ?」




 再び声をかけられ、我に返ったセシルは答えた。




「あ、あぁ、船で灘波にあい、ここまで流されてきた」




「そうか。それは気の毒にな。どこに向かう途中だったんだ?」




「バロン国だ」




「バロン国か。ここからは遠すぎる。ここからいける国といえば、ミシディアぐらいだ。そこまでなら、手を貸してやらないこともないが、どうする?」






 ミシディアという言葉を聞いて、セシルは表情こそ出なかったが(兜で覆われているので他人からは見えない)複雑な心境を持っていた。




 あの時、クリスタルを奪った時、魔導士たちの怒りのこもった瞳を・・・言葉を思い出していた。






 ―――――何もわかっちゃいないんだ!!あのクリスタルはただの飾りじゃないんだ!!


 ―――――クリスタルだけは、ミシディアに!!必ずこの世界に良くないことが起こるわ!!


 ―――――許さない!!あたしの大切な人を傷つけたあなたを・・・・・・!!






「・・・い、どうした?」






 小人に呼びかける声に我に戻ったセシルは侘びをいれ、尋ねた。






「いや、なんでもない。ミシディアにいくにはどうやっていくんだ?」




「あぁ、土の仲間に力を借りてもらいながら、地中をもぐるんだよ」




「・・・・・・え?」






(いま、なんといった?)






「え、えーと・・・地中って・・・この、下を?」




「それしか方法はないだろう。漁船を貸してやってもいいが、大きい人には小さすぎるし、空を飛ぶものすらない。地中をもぐって島を渡ることが、この村では当たり前だ」






 あっけらんと答える小人に、セシルは内心戸惑っていたが、それしかないだろうと改めて思い直した。






「では、案内してくれないか?」




「その前に、準備をしておいたほうがいいぞ。いくら、地中とはいえ、モンスターがどこに出てくるかわからないぞ。まぁ、魔よけの聖水があるから弱いモンスターには会うことすらないだろうが」




「わかった。準備しておく。それで、終わったらここに戻ればいいのか?」




「あぁ、別に急ぐことはないぞ」






 セシルはすぐに色々な店を回って、最低限必要な物を買い揃え、再び戻ってきたのは、それから1時間後だった。








◆ ◆ ◆








 ミシディア国領に無事到着したセシルは、案内してくれた小人に礼を言い、彼らと別れようとしたが、護衛役だった女戦士・・・レイアが共に行くことを望んだ。




「しかし・・・レイアは・・・・・・」




「セシルが決めるのではない。あたしが勝手に決めたんだ。自分の身は自分で守れる」




「諦めな。黒戦士、レイアは言い出したら聞かないからな。案外力になれるぞ」




 小人が口を挟んで、セシルは内心ため息をした。




「わかった・・・。君が決めたのなら、もう何も言わない。しかし、帰りは大丈夫なのか?」




「心配無用だ。お前達と違って、俺はすばしっこいんだ。危なかったら姿をくらますさ。さて、時間が惜しいから、さっさと帰ることにするよ」




「じゃ、またな」




「ありがとう。いつか、恩は返すよ」


「楽しみだ。じゃあな」




 三人は別れの言葉を交わして、小人が地中へもぐって見えなくなるまでセシルとレイアは見送っていた。








◆ ◆ ◆








 いくつかの森をくぐりぬけ、視界が広がったと思ったら、その向こうにひとつの山を見つけた。


 そこは植物もなく、ただ岩だけがくっつけて建てられたような山だった。


 生物など生きていないような、ひどく寂しく暗い雰囲気を漂わせるような感じがするのは気のせいだろうか・・・。






「あれは・・・・・」






「試練の山ね」








 セシルのつぶやいた疑問に、レイアが応えた。








「試練の山・・・?」






 レイアに振り向いて聞いた言葉を繰り返し口に出すセシル。






「そう。パラディンになることが出来るところよ」




「パラディン・・・・」






 自分のような暗黒騎士の正反対であり、光の力を持つ騎士・・・。


 その試練を受けるところがあるとは聞いていたが、それが、まさかこのミシディアのあんな山にあるとは知らなかったのだろう。






「パラディンとなるために挑戦した人たちは数多くいたけれど、誰一人戻ってくる者はいなかったと聞いているわ。それほどまでに厳しい山ということね」




「・・・・・・」






 セシルが黙っているのを訝しげに感じて、レイアはセシルのほうに向けて名を呼んだ。








「セシル?」






「・・・・・・暗黒騎士から、パラディンになることは不可能ではない・・・?」




 突然の言葉に内心動揺を覚えながらも、その問いに答えるレイア。




「そうね。それは決して不可能とは言い切れないわ。心強き者・・・悪というよりも負の力に屈せずに光だけを力とする素質を持つ者なら・・・ね」






 そして、付け加えた。






「決して、興味津々で向かわないのが身のためね」




 レイアの言葉に、セシルはレイアから試練の山に視線を向けて、決意を込めた声で口を開いた。






「もし・・・・許されるなら、この、血塗られた手を、暗黒騎士である枷から、逃れる事ができるのなら、僕は・・・・・・試練の山に行く」




 表情にはださずに、静かにセシルに問いかけるレイア。




「・・・・・・本気なの?」






「あぁ」




 試練の山からレイアのほうに向け、じっとそらすことなく、まっすぐにレイアの瞳を見据える。


 そんな彼に、レイアは思った。






『本当に、その一途な瞳は昔から変わらないわね・・・・・』








「だけど、炎が道をふさがっているわ。あいにくだけど私は今、魔法が使えない。どうやって炎を消すというの?」


 そう、レイアは今、魔法が使えない。


 使い果たしたわけでもない。ただ、日が悪いだけの話だが、それはおいおい話すとしよう。






「・・・・・・こんな事を使うのは故意的だが、ひとつだけ、方法がある。ただ、炎が消えるのはほんの一瞬だから、その隙をついて抜けるしかない」




 そこまでいわれて、セシルが何をしようとしているのかを気づいたレイアは確認するように口を開いた。




「・・・・・暗黒剣ね?」






 声に出すことなく、頷いて答えるセシル。






「でも、あれは・・・・いいえ、セシルが決めたのだから、私に止める権利はない。私もいくわ」






「ありがとう。レイア」




「礼を言うのは、無事帰ってきたらの話よ」






 レイアの言葉に頷いて、セシルは試練の山へ足を踏み出した。その後を追うレイア。










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あとがき・・・・

 ううっ、1年弱ぶり・・・・。

 オリキャラが出ました。
 まぁ、彼女はセシルのことを昔から知っているようですが、 彼は覚えていないというよりも・・・  ネタばれになるからやめておこう。(いや、なんとなくばれてる?)
 えっと、次は・・・・ミシディアかな。それとも・・・


 それにしても、読んでいて気づいているだろうが、タイプが変わっているな。

 いや、小説のつづりが・・・

 まぁ、こういうのもいいだろう。ころころと変わるのはいい。(開き直り!!)

 あぁ、でも見捨てないでくださいっ。ほんのちょっとでもいいですので、楽しんでくださったら幸いです。




 最後まで読んでくださってありがとうございます。

誤字、修正、感想、リクエスト等いただいてくださるとうれしいです。


H17.3.6  麓樹